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嘉山先生インタビュー

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嘉山 孝正
昭和25年神奈川県生まれ、東北大学医学部卒業、
平成8年山形大学教授、平成14年病院長、平成15年医学部長
脳科学、脳卒中、脳腫瘍、機能的脳神経外科が専門


インタビュー日: 2008年12月18日

インタビューアー:

女子医大4年川井未知子
東大3年森田知宏
東大3年竹内麻里子
東大3年嶋田裕記



現在、国では臨床研修制度の見直しがなされていて、私たち医学生の将来に大きな影響を与える可能性があります。しかし今のところ、当事者である医学生自身の意見が十分に反映されているとは言えません。

そこで医学生の会では学生からの提言作りを目指し、その特別企画として、様々な改革を行っている山形大学医学部長 嘉山孝正先生にお話を伺いました。


学生:山形大学は様々な対策を講じていることで有名ですが、具体的に医学部教育についてどんな対策をとっているのですか?

嘉山:僕らが学生の頃は、大学教授は医学教育についてなんて考えていなかった。医者として最低限の理解は何かなんて教えてくれないし、自分の研究のことばかりやって、ほとんど趣味的なことしか話さなかった。医者として必要なカリキュラムという考え方は無かったんだよね。その頃は大学進学率も低くて、精神的な面でも入ってくる人間は絞られていたけど、今は生徒の質がだいぶ違う。助手の頃とかは自分の担当の学生しか見ないが、教授になって、生徒と真剣に向かい合って初めてそういうことがわかる。特に教務委員長になってから、この国は大変だ、人間力が無いなと感じた。ただ何かを知っているというだけの人間で、自分で勉強する力が無い。昔は医学をやるんだ、という気持ちがあったが、今は勉強ができるから医学部に来る、という傾向が強まっている。これは小中高の教育が悪いのであって、能力が無いわけではないはず。生物学的に正規分布だからね。
きちんとカリキュラムに沿って教えなくてはいけないと思って、ちょうどCBTの委員になったから試験問題を集めたんだよ。そしたら、学生も変わったけど教授の力も落ちたと感じたね。重箱の隅をつつくような問題では、考える力なんて養えるわけがない。暗記だけではだめで、本当に理解させるような教育をしないとだめだ、と。そこで学生のモチベーションを上げるような教育をやった。
学生にとって、単純だけど、一番大事なのは進学進級だ。以前は受験科目も易し過ぎでひどかったし、5科目落第しても進級させてしまっていたんだよ。だから一科目でも落ちたら落第にする、というのを教授会で言ったら、教授たちがザワザワ(笑) でも教授会を通してしまったら、学生の目の色が変わったよ。

学生:それはそうですね(笑)

嘉山:そのかわり試験問題は厳選し、本当に考える問題にした。勉強していない学生でも正解できてしまうような問題や、勉強している学生の正答率が2割無い問題はダメ。愚問・奇問・難問の類は排除した。難問である必要はないんだよ。カリキュラムのコアをきっちり作って、その上で研究などが別にあればよい。まず最低限医者として必要なことをきっちりやる。そのかわり1年で1科目でも落としたらダメ。ハーバードの学生は、寮と図書館と教室との往復だよ。
もう一つは、僕は脳外科医だから、手術は1回しかできないということ、つまり最初からethicsを学ばせるというねらいもある。知識knowledge, 技術skill, 倫理観ethics,これが医学部の3つの原理だよね。倫理観というのは、切羽詰ったとき踏ん張れるということ。
他にも学閥をなくしたし、そういうの全部、総合的な改革をしたんだよ。試験問題も良くなったし、学生にも厳しくなったけど、教授にも厳しくなった。あとは総合試験というのを、教務委員長の単位として9年前に始めた。国家試験と同じような割合の内容で260問程度の試験を、同様に愚問・奇問・難問をはずして作った。受験は1回だけ、追試もなし。

学生:うわ・・・厳しい・・・(笑)

嘉山:厚生労働省にデータをもらったんだけど、国家試験の成績というのは傾向としては正規分布で、大学によって山がずれているんだよ。落ちる人数はさほど差が出ないけど、それはぎりぎり下のほうで切っているから。実際は大学間の力の差は、考えられているより大きい。学力が下のほうを上に上げるというより、全体を引き上げてやらないといけないんだよね。データを教授会で見せて、国家試験の合格率で判断するのではなく、やはり我々の教育がきちんとしなければいけない、と納得させたよ。
これに伴って62だった山形大学の偏差値が72になった。出口を良くすれば、入り口が良くなるということ。グローバルCOEも取ったし、学閥ではなく実力のある人を病院長につけたりしている。教育・研究・臨床(高度診療)が大学医学部の使命なんだけど、たったひとつ大学でしかできないのは教育。これが一番大事。ただ余力があれば研究でもなんでもやれば良いと思うし、僕はがんの研究と脳外科の研究、また手術も月6回やっている。



学生:選択授業が欲しいという声もありますが、最低限必要なものとは別の分野の授業をやる予定はありますか?

嘉山:社会科をやる。

学生:医者としての最低限の教育と、そういった授業は相反する気がしますが・・・。

嘉山:僕がやろうとしているのは、法学・経済学・社会学。これが医者に足りないものだと思う。だからといって法学の条文を教えるのではなくて、日本の刑法はどういうコンセプトで成り立っているのか、経済学者の理論とは何か、何をもとにしているのか、といったことをやる。コンセプトだけ教えるから、多くの時間数はいらない。

学生:社会科というのは必修なんですか?

嘉山:社会科は必修でやる。なぜ思いついたかというと、今の時代医者が無防備に飛び出していくと大変だから。以前私学連盟で呼ばれて『医学のレジームと法学のレジーム、相違の中での学生への医療安全教育』というようなテーマで話したけど、我々自然科学は帰納法であるのに対し法学は演繹法で、全然言葉が違うということ。法律家が言うと、可能性があるというのは「そうだ」という意味になってしまうが、自然科学ではもっと違う、いろんな可能性が考えられるという意味になる。



学生:刑法の話が出ましたが、先生は刑事免責というのは妥当だとお考えになりますか?

嘉山:自然科学をやっているから、我々としては刑事免責は100%を求めないといけない。なぜかというと、医療がサービス業で労働対価になってればいいけれど、日本では国民皆保険になっている以上制限がある。日本とアメリカは医者の数が10倍違うが、若い医者が間違いを犯してもオーベンがたくさんいるから修正が利くし、看護師もアメリカでは同じベッド数に対して8倍もいて、やはり修正が利く。そうなるとこれはシステムエラーであって、個人は責められない。殺してやろう、というのは犯罪だけど、一生懸命やっているのは違う。警察だって犯人を何度も取り逃がしていて、ああすればよかったとか話し合うけど、それは僕らがカンファレンスで話し合っていることと同じようなものだよ。それを過失だ、過誤だ、と言われても困るよね。自動車事故と全然違うのは、自動車ではやってはいけないこと、例えば赤で突っ込むなとか左右を見ろとか書いてあるということ。それは業務上過失で仕方ないけど、医療ではどこにそんなこと書いてあるの?そもそもガイドラインとかエビデンスはアメリカの保険会社から始まったもので、医者から出た話ではない。だってガイドラインなんて作ったら進歩が無いじゃない。

学生:それは本当にそうですよね。

嘉山:そのときの条件は、自浄作用をきちんと持つということ。ちゃんとしていなければ非人道的なことが起こるかもしれないからね。あとは情報開示。悪い事をしていないなら全て出すべきで、結果が悪くたって仕方ないじゃない。すぐ情報開示するのが一番良くて、隠すからいけない。
刑法211条には過失があった場合は捜査して良いと書いてあるが、まず犯罪かどうかという問題だ。してはいけないと書いてあることをやったら犯罪だけど、昭和23年に当時の医政局長は、医療行為に211条は合わないと言ってるんだよね。ところが富士見産婦人科の事件があってから、刑事が入ってきてしまった。ガバナンスを発揮して、自浄すれば良かったのにやらなかった。

白い巨塔で医者のイメージも悪くなったけど、ビジネス街でも同じようなことがたくさんあるだろうし、白い巨塔では給料の話は全然出てこない。お金は社会のために道具としてある、でもサブプライムローンのように社会を壊すような動きをしたら終わりなんだよ。もっと社会学者とかに頑張って欲しいよね。さっきの社会学の話に戻るけど、東大工学部では「社会人学」という授業があって、人生の中での職業のpathについてやっている。毎日新聞の理系白書にあった話だが、最初は理系もいいけれど、30代くらいから文系に抜かれて、後で文系はお金を稼げる。日本の社会は経済的にも文系に有利になっていて、これでは技術立国なんてできない。医者の場合は、他と比べると困りはしないかもしれないが、それでも労働に対して給料はとんでもなく安いよ。



学生:では嘉山先生の考える理想の労働環境とは?

嘉山:若いときは給料は月5万円だった。日本の医者には労働環境なんて概念は無くて、赤ひげ的に辛くても頑張って働いていたし、そういう文化の中で育ってきてしまった。しかし今はそうではないよね。本当に体力の持たない人もいるし。外科系は完全に手術時間に拘束されるから人が減り、9時〜17時だったりする精神科に流れてしまっている。



学生:山形大学は、診療科偏在についてどんな対策をとっているのでしょうか?

嘉山:インセンティブとして、ドクターズフィーという手当てを出している。何例やったって自分に還元されない手術を、アメリカ人だったらやる人はいないよ。生死に関係する医療業務内容で、35万円以上の手術は1割個人にかえってくるようにした。脳外科だったら大体7万2千円になる。

学生:やる気はどんどん出てきますね。

嘉山:さらに大学のお産はリスクが高いものが多いから、2万円出す。麻酔科にも同じだけ出している。あと夜の当直で、特に脳外科は呼び出されることが多くてかわいそうなんだよ、もう寝られない。だから呼び出されたら1回につき6千円を個人に支給している。教授が当直しなくても、臨床系では教授は6万、准教授5万、とか出すんだけど、基礎系には出していない。僕は朝6時には大学に来て夜12時頃に帰るのに、基礎系の人はそんな早朝・深夜には大学にいないし、日曜日にも研究室に1,2人しかいないからね。



学生:それだけしかいないんですか!

嘉山:東大だって基礎の大学院生は今年1人で、去年は0人だよ。清水医学部長からデータをもらって、文部科学省に持っていったんだ。卒後研修制度を潰せというのはそういうこと。日本の医学研究は崩壊している。

学生:だから基礎に行けと言われるのですね。

嘉山:日本の医学研究は、かなりレベルは上なんだよ。金が来ないから形になっていないけど。日本の工業技術を持ってすれば、海外に負けるはずないでしょ。でも海外では技術者が病院の中を走り回って情報交換している、だからいいのができるんだよね。でも日本の場合は厚労省、文科省縦割りになっている。重粒子線って知ってる?

学生:はい。

嘉山:重粒子線治療は千葉の放医研でやってて、今群馬でもやろうとしているけれど、これを山形に持って来たいと考えていて、ほとんど実現する。今買うのを躊躇しているのは、日本がトップでなくなってしまったから。日本は4、5年前までトップだったけど、開発側と医療側の連携がうまくいってない。そのうちにドイツのシーメンスに抜かれて、性能がもう全然違う。放医研の施設では一日に600人、シーメンスが作る施設では1600人できる。値段も違うけど、600人しかできなければ採算が合わないし、おそらくシーメンスを買うことになると思うよ。そうやって山形をメイヨークリニックのようにしたい。ヒルトンホテルはないけど、温泉もいっぱいあるしね。

学生:メディカルシティーにするということですね。

嘉山:こぎれいなペンションみたいな、清潔感あふれるものを作って、温泉に入ってもらう。ジェット機で来ればいいんだから。アメリカだと1500万円だけど、日本では300万円で済む。1200万も違えば患者が来るし、一日で終わるから翌日から会社にも行ける。やっぱり日本のタテ社会がここまできちゃうと、重粒子線の技術が世界に売れるはずだったのに、大損だよね。



学生:蔵王協議会というのは、具体的には何をしているのですか?

嘉山:医師の適正循環をやっている。山形の病院長全員、教授会、県、県の医師会、准教授以下の会でやっていて、教授や病院のエゴは通さない。

学生:医局とは違う、新しいネットワークでやっていく、ということでしょうか?

嘉山:でも、たとえば産婦人科の医者がどういう人が良くて、誰と組んだらいいかとかいうことは僕らはわからないから、それは産婦人科の医局、つまり教授が評価している。医局は新聞社で言えば、デスク。この病気はあなたが手術しなさいとか、医者の循環についても、あの人は1年以上行っていてこのままだとレベルの低い医者になってしまうので呼び戻そう、とかそういうことができる。日経メディカルでも以前、「山形大学は医局を強化します」と言っている。その頃に医局を廃止すると言っていた大学では、結局人が足りなくなって教授まで当直することになってしまった。すると病院があるから診療で手一杯で、教育もできなくなる。うちは足腰が強いから大黒字。

こういうアイディアで日本で最初のことをやっているから、病院だってどんどん良くなる。日本で最初の24時間コンビニ&保育所も作った。以前は売店で、話しかけても店員がしゃべっていたりして、売り上げも悪かった。17時になると閉まってしまうので、手術が終わっても周りにお店なんてあまりなく、食べるものがない。自動販売機みたいなもので買うしかなかった。今ではうちのコンビニが山形で一番売れている。
コンビニが黒字になったので、その半年後には24時間の保育所を始めた。保育所は絶対赤字になるが、女医が夜中に緊急で呼ばれた時に、不安になるようなのは文明社会じゃない。だからコンビニの黒字で保育所の赤字をうめている。なぜ今まで24時間じゃなかったかというと、保育所を使っていたのは看護師達だったから。看護師は一ヶ月前くらいに勤務表が出る。そうすると絶対に、保育所が必要でない時間帯が出てくる。財団としては少しでも人件費を削減しようとするから、必要ない時間帯に保育所を閉めて、24時間体勢を作るのは無理だった。でも、セーフティーネットっていうのは「安心」のためのものだから、どんな事があってもカバー出来ないといけない。看護師だって、患者が急変しても、6時で子供が追い出されてしまうと思ったら患者を看ていられない。女医の場合は夜だから、都心のように親やベビーシッターがいる場合は少ないし、オロオロするだけ。僕みたいに優しい旦那だったらいいけど、理解のない旦那だったら、「なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだ」ってなるわけじゃない?子供0人の時間があってもいいから、赤字になるの覚悟で24時間預けられるようにする、それがセーフティネット。24時間というのはなかなか無いから、民間企業から運営の仕方を見に来ることがあるけど、特別な方法なんてないしやっぱり赤字。
スタバも本社まで行って頼んだが、断られた。だめだったからドトールを24時間で入れたら、学生にも人気だよ。そういうのを自分でやることだ。

山形大学では国家試験は通るようになり、研究費も下りるし、みんな元気になって入学試験もよくなった。こういう事業は職員に対するねぎらいのため、また患者のため。昔は日本は患者の隔離政策をやってきたが、それではダメ。欧米では当たり前の概念だが病院は「街」だ。うちの病院は緑やオレンジのベネトンカラー。銀座の街並みと同じベネトンカラーだよ。手術場はピンクだし、くすんだ色なんて使わず、ヨーロッパの病院みたいに元気な色にした。
手術場といえば、国立で唯一手術場にMRIを持っている。あとドイツの1億円の手術台を2千万円で買った。性能が全然違う。そういうのがあるから、学生も東北地方で一番残っている。

学生:すごく山形大学に行きたくなってきた!確かに魅力的ですね。

嘉山:だって色々工夫してるもの。



学生:先生のお話を聞いていると、山形大学でなくても一般的に応用できそうなことが多かったと思います。嘉山先生がやりたくても、山形大学ではできないようなことはありますか?

嘉山:ない。今度は病院を買おうと思っていて、交渉中だ。僕が考えているのは、ハーバードがあってMGHがあって、というような病院群。僕が経営をやれば黒字になるしね。今は山形に合った方法でやっているが、どこに行ってもその場所の状況を分析して、また違う方法を考え出す。それが改革者だ。改革者はinnovateしているわけではなく、良くしているだけ。一期は8年だが、やろうと思えば改革はできる。責任と決断だ。



学生:嘉山先生の考える理想の医学生のあるべき姿とは?

嘉山:僕自身、医学生の時は大学の勉強は全然しなくて、自分で勉強していた。自分独自のノートを作っていて、理解するまで先には進まなかった。暗記は全然せず、全部英語の教科書で勉強した。当時日本語の教科書はあんまりいいのがなかったからね。
自分で勉強する姿が理想の医学生像。教科書をただ勉強するのではなく、鑑別診断を常に考えながら勉強した。学生のときから『内科』っていう雑誌を読んでいて、疾患別に勉強するのではなく雑誌の特集などで実際に現場での対応を想像しながら勉強した。例えば肺炎の特集なら、間質性肺炎、大葉性肺炎とか一気に勉強できる。しかも、どの疾患が頻度が高いか、どんな症状が出やすいかまで書いてある。



学生:なるほど。すごいですね。アメリカってかなり医者の分業が進んでいますが、それについてはどうでしょう?

嘉山:アメリカのfragmentation医学っていうのは完全に崩壊していると思う。アメリカの医学は日本の医学よりレベルが高いとは言えない。学会に出ているような先生達はすごいけど。
アメリカはレジデント教育まではすごくいい。お金がかかっているからね(笑) でも、一人前の医者になってからは誰も面倒みてくれないから、生涯教育がなされてない。臨床では、技術がそんなになくても、患者さんを集めれば偉くなっていける。自分がキャリアを積み重ねていくためには、若い人の教育よりも自分のキャリアのために汚い事をする人も少なくない。みんな競争者だもの。
だから、日本での屋根瓦式の教育っていうのはすごくいいものだと思う。それが、きちんとした生涯教育のチェック機構になっているから。

学生:アメリカの分業自体はどうでしょうか?

嘉山:分業が進み過ぎてしまって、患者をトータルにみられていないのが現実。外科の人はずっと切るだけ。あれはもうパーツ屋。自分の専門のこと以外は全然診ないから、自分の役割が終わったらバトンタッチで後は知らない!というようなもの。あれは医者って言っていいのか疑問でもある。
日本では一人一人の医者が、患者さんをもっとトータルに診ていることが多いんじゃないかな。だから、WHOがアメリカの医療を15位にしていて、日本は1位なんだよ。でもそういう情報はあまり知られていない。

学生:日本が1位なのは、医者が犠牲をはらって頑張っているから、コストパフォーマンスがいいからっていう話ですよね。

嘉山:そういう全体評価でも1位だけど、医療レベルでも1位。あとは、日本国内どこでも一定以上の医療レベルが保たれているという面でも1位。アメリカはその面でも16〜18位だよ。つまりニューヨークの医療とテキサスの医療では差があるっていうこと。



学生:他に山形大学の特色はありますか?

嘉山:教養として本を読むように教育をしている。例えば1年生にはシェイクスピアの本を10冊くらい読ませている。他にも夏目漱石、小林秀雄とか。なぜなら、私達医者は「人間そのもの」と向き合う仕事だから。理科系でありながら文科系でもある。医学は物理学であり、化学であり、哲学でもある。君たちは映像の時代に育ったから、表面的な情報にごまかされる事がいっぱいあると思う。人間は善にもなりうるし悪にもなりうるし、本当の気持ちを顔に出さない。本を読むと、そういう人間の表面だけでない本当の姿が見えてくるようになる。
医療訴訟が増えている理由のひとつは、医者が人の真の心を読みとる力が弱くなったからかもしれない。こういう力は大学になって身に付けるものではない。だから、数学ができる、理科ができるとかだけでは医者にはなれないっていうことだよね。知識なんてどんどん入れ替わっていくから、医者は知識だけではやっていけない。私達が学生のころはCTなんてなかったんだよ。考える力を養わないと。

学生:そうですね。知っていなければいけない情報はどんどん増えていきます。こうやって知っておくべき知識が増えていくと辛いですね。

嘉山:もちろん全部を専門的に知っていようなんてことは無理。だけど、鑑別診断をしっかりして必要な場合はすぐに専門家に送るという能力は必須。



学生:今の臨床研修制度は、いろんな科をローテートさせて、プライマリーな鑑別診断をしっかりできるようにする目的で作られたと思いますが、それについてはどうですか?

嘉山:今の臨床研修制度はプライマリーに偏り過ぎてしまった。あれはちょっとゆとり教育だな。私達の時は、外科は1年生からプライマリーケアをしっかりやらされていた。とくに東北大学の研修は厳しかったから、外科に入局したのに内科の勉強をさせられた。あくまでも外科の技術、アートの部分は手術の中で学んでいくもの。だから普段の勉強は外科以外のことの方が多かった。
この間の大野病院での事件では医者の技術の上手い下手で逮捕したから、医者達が怒ったんだ。技術のレベルで逮捕していたら、世界で一番手術の上手い医者しか手術が出来なくなってしまう。



学生:日本の医者の働き方、システムについてはどのように考えますか?

嘉山:まず、24歳まで勉強して大学を出て、非正規労働者扱いはおかしすぎる。しかも医者は大学病院にいれば、臨床やって、研究やって、教育までしないといけない。その割に給料はもらえないし・・・。僕は32歳でやっと国家公務員になれたが、それまではずっと日々契約を更新して働いていた。大学の教官なのにアルバイトしないと子供を学校にやれないなんていう人もいる。この給与体系は異常でしょ。しかもドイツの夏休みは一ヶ月もあるのに、僕はもう4年間夏休み無いよ。

学生:それはどうしてなんですか?人が足りてないからでしょうか?

嘉山:それは、多くの人が働いていないからだよ。下の若い人たちは汗水垂らして働いているけど、ある程度の年をとったら下の人たちに働かせて、自分はそんなに働いていない。若いうちに安い給料で働いて、あとはあんまり働かずにお金をもらえる。これは新聞社でも行政でも医療界でも同じ。ヨーロッパでは若い人たちだけじゃなくて、みんなが同じくらいに働いている。だから休みもとれるし、役職が上の人たちが労働環境を改善しようと頑張る。(自分たちのためでもあるから)
日本のそういうシステムも、理科系が黙って働いている間に、文科系の人たちに有利なように作られちゃったんだよね(笑)



学生:最後に医学生にメッセージをお願いします。

嘉山:医学部は人を助けることしか目的にないピュアな仕事。悪くなりようがない。人を助けるっていうすごく純粋な目的が明確だから、みんなプライド持って仕事ができる。また、医者はグローバルな仕事でもある。ニューヨークの患者の病気も、東京の患者の病気も、北海道の患者の病気も診られるよね。法学だったらなかなかグローバルに仕事ができないでしょ。そしてなんといっても、医学は理系でありながら文系のこともしなければならない総合学問。特に臨床は、応用学の最高峰だよ。
今社会の中ではいろいろ言われているけど、若い人たちにはプライド持って頑張って欲しい。君たちが働きやすいような環境やインセンティブ作りなんかは僕達の世代がやるから。頑張ってください!

学生:嘉山先生、ありがとうございました!

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