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第1回勉強会議事録

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「医師のキャリアパスを考える医学生の会」第1回勉強会が女子医大にて開催された。12大学から83名の参加があり、大盛況となった。
ご挨拶される土屋了介国立がんセンター中央病院院長

代表:東京女子医大4年 川井未知子
副代表:慶応大学医学部4年 吉野雄大
司会:東京大学医学部3年 森田知宏
講師:国立がんセンター中央病院院長、後期研修班会議班長 土屋了介先生

代表:今日は臨床研修制度について土屋先生とお話ししよう。
今政府でなされている提言には、2年間の研修を1年間に短縮する、研修病院を限定する、診療科に制限を加える、などがある。医学生にとって研修は重要なことだと思うので、研修制度の見直しをもっと知って、医学生の意見を伝えていきたい!今日も議論にどんどん参加していただけたらと思う。

司会:皆現在の制度を良く知らないだろうから、鈴木陽介さんに説明してもらう。

東大6年鈴木:(パワーポイントを示しながら)
医学教育には大きく分けて学部教育、臨床研修、臨床研修後の3つがある。学部教育は教養、基礎、臨床、病院実習などからなる。マッチング制度については会場の7割くらいは知っているみたいなので、ごく簡単に説明するにとどめる。
臨床研修は医師法の規定、厚生労働省令で決まっている。来年から一部改正され、例えば東大の産婦人科コースのようなコースも作られるようになる。待遇は病院によってさまざま。がんセンターでは給料は360(400)万円程度。
専門医制度は学会ごとにバラバラに規定されている。例えば神経学会では、研修6年、学会3年、認定内科医、などの条件を満たす必要がある。
制度が変わるにせよ変わらないにせよ、初期研修と後期研修が分かれているなら自分で探さないといけないから、後期研修をどこでやりたいかなど考えて病院見学すべきだ。

司会:土屋先生から一言いただきたい。

土屋:今日はネクタイを締めてきたが、前回医科研に行った際は内科旅行に行ってきた帰りだったので締めずポロシャツだった。
女子医科大学といえば頭に浮かぶのは吉岡弥生先生。慶応での学生時代、解剖学で久保先生(吉岡先生の弟子)に習った。現状を斜めにみると、女子医大には…男子トイレが無い!これは逆差別であろう。今では防衛医でも女性を募集している。こういうことを誰も気にしていないことが日本の問題を象徴している。すなわち日本の医師が教育について真剣に考えてこなかったということである。自分も心からおわびしたい。
私は医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医の研究班を舛添先生にお願いして作って半年やってきた。なぜこのような研究班が必要かというと、皆さんが安心して研修できるようにである。今度卒業する方は夏に研修先を決めたが、他の学部であればこの作業を3年から始める。どの社会でも自分で就職口を探すのだから、医学部生は社会性を備えていないとも言える。今は進路を自分たちの問題としてしっかり考えられると思う。
例えば皆さんが工学部を出てトヨタに入ったとしたら、議論はできても仕事はできない。それは経験が足りないからであり、最初はチームに入って何年かたってリーダーになって、というコースに乗ることになる。わが国の場合、医者にもそういう制度がないといけない。2年間の後、そういう制度がないことが一番いけない。今日は疑問をどんどんぶつけて欲しい。

司会:これから学生の質問タイムにする。最初のテーマは卒業後2年間の初期研修とするが、学部教育についてでも構わない。
誰もいないなら私から提案がある。臨床に行くのか研究に行くのかも決まっていない人もいる。その一人として何か質問などないか?

東大3年男性:今自分は基礎にいくか臨床にいくか悩んでいる状態。まだ臨床の授業を受けておらず、基礎の授業ばかり。臨床をイメージでしか分からない。

土屋:アメリカではメディカルスクールが4年間ある。そのうち2年は教室で授業、2年は病院で症例ケースカンファレンスを行う。つまり学生のうちから一人ひとりが強く臨床に当たることになる。学生がレジデントに付いて、レジデントがさらに上級の医師に付いて…という縦のつながりを学生の間から得ることになる。学生のうちからこうしたことをやっているから、医学校を出る頃にはかなりの力がついている。メディカルスクール(医学大学院)はどこかのカレッジ(文科系を含む)を出た後に行くので、学生は年をとっている。そして学部の頃から基礎の教室に行っている人がたくさんいる。すぐ基礎の教室に行く人は多くないが、レジデントの後戻る人が多い。こういうことはトランスレーショナルリサーチと結びつく。日本では、基礎も臨床も知らないで研究室に行き、テーマは論文から得ている。これではテーマで数カ月のディレイが生じてしまう。これでは仕方ない、勝負にならない。あなた(質問者)の場合は、夏休みにでも病院見学に行くといい。市中病院などならかわいがってくれるだろう。病院見学で臨床への理解が深まり、現場を知れて、どこが問題か分かる。そうすれば、解決したい患者さんの悩みを知れる。そうすれば世界と並ぶことができる。

慶応4年男性:臨床とのかかわりで研究テーマを選ぶのは重要だが、大学院に入ると臨床の合間に実験となるのでなかなか実験が進まない。もう少し実験に時間を割けばいいのではないか。

土屋:質問者が心配している通りである。二兎を追うものは一兎も得ずということわざの通りである。他の学部では臨床なんて無いし、アメリカでも臨床はやってない。これでは勝てない、新しいことをやるなら没頭しないといけない。日本の多くの大学院は間違いを犯していると思う。がんプロフェッショナルなど文部科学省がやっているが、これらは大きな間違いである。どうして研修した後の人から授業料をとるのか。アメリカではレジデントも給料をもらいながら習っている。アメリカでは研究側のチームと臨床のチームを一緒に持っているので、研究に没頭するある程度の期間が取れるから仕事が進む。日本でも昔は没頭するシステムができていたが、学園紛争でだめになってしまった。これは嘆かわしいことである。研究するなら研究に没頭して奨学金を出すのがよいと考えている。

慶応4年男性:大学院に行ったとしても、臨床の仕事も平行してあると思うが、医師増によって大学院生の仕事は減るのか?

土屋:大学病院では今も人は多いが、病院にお金がないのでずっといてもらうだけの給料が払えないので皆外にアルバイトに行ってしまい、人がいなくなっている。アメリカなら病院の中で3年なり5年なりの期間をとって育てる。全米で決められたドキュメンテーションがあるから、それに沿って教育しているが、日本にはそういう規制が無く3年目以降は大学次第。まともに教育しようという気が感じられない。例えば肺癌だと年500例、それも市中病院が主なのに、教育を大学病院で抱え込もうとしていて、症例数が足りない。大学院に行った人を大学院に専念させる人的余裕は本当はあるはず。

慶応6年男性:もっとここにいる学生が意見をぶつけていくといいと思う。というのも学生が上の言いなりになっている面があると思うからだ。身近なところでは、慶応では慶応病院での研修が60人から55人に減った。しかも願書を出した後のタイミングで突然減った。これは受験生のことを全く考えていない。通知曰く、厚生労働省から強い依頼が来た、医師偏在をどうにかしたいとのこと。こういうやり方は民主国家としてあるまじき。せめて学生の声を聞け。個人的な考えでは、学生が声を上げないから上が決めてしまうのではないか。

土屋:私も慶応を卒業したが慶応病院では研修していない。30年以上前だから比べられないが、あまりまともに考えられている教育制度とは考えていない。最初からクロスオーバー、市中病院と仲良くやっていこうという考え方で、付け焼刃的にしてはひどい制度。慶応大学病院で2年とも研修する人、一年は外で一年は内の人など、関連病院を多く持っている大学はそうしてきた。だがここには問題がある。本当に関連病院は大学と同じ意思をもってやっているのか。しかも、日本の病院のベッドはアメリカの半分のベッド数相当でしかない。女子医科大学でも1000ベッド、これでは10人か20人分の教育の材料しかない。真剣に教育のやり方を考えたらできるはずだが考えていない。
配布資料の9枚目、これは厚生労働省職員が何も考えていない証。医者がいないといわれているときに、今までなら大学病院に皆残っていたのが、大都市の市中病院に行ってしまったので大学病院に人がいなくなった。で派遣していた市中病院から医師を引き上げた。
臨床研修制度で小都市・町村部に研修医が行かなくなった。

次のページ。都市部の定員を地方に回せばいいといっているが、前回の妊婦のように、都市部でもたらいまわしどころか行くあての無かった状態。
適正な定員にすれば現在の臨床研修制度でも小都市・町村部に研修医が行くことになる。

これはもう医師を増やすしかないのに、4年間何も知恵を絞ってこなかった。まず患者さんのことを考えなければいけない。患者さんのために我々はどのようにしなければならないのか、それを考えて厚生労働省なりに考えを言おう。私が考えているのはfor the patientのみ。自分の意見がぶれていないか。皆さんの年代でもどんどん考えて欲しい。現実の患者さんをまず見る。そこから学んでいただければと思う。

女子医5年女性:将来30年など考えて、家庭医総合医などのありかたなどを教えて欲しい。

土屋:資料7枚目の左上を見てほしい。医師と歯科医師と薬剤師を全部調べて、何科を標榜しているか、病院にいるか診療所にいるかを集計したもの。30万人のうち三分の一くらいは診療所で内科をやっている。
医師の内、約三分の一は診療所で内科をやっている。

資料9枚目、図の10を見てほしい。日本では真ん中の太い字で書いてある家庭医というものがほぼゼロ。
学年の内、3000人を家庭医にする、新たな医師養成プログラム案

京大医学部などでは総合診療医があるが、教育を受けているのは数人。こういう人たちはみんな一般家庭医になれる。なぜならあらゆる科を勉強するから。そのためには眼科も耳鼻科も産科もなど各科のある大学病院などの大規模な病院で研修しなければいけない。医師会会員のやっているような町の診療所では無理。今医師会に入っている人は専門家だから、総合診療医ではない。開業医の息子が医学部を卒業して研修から帰ってきても、すぐには診療所で診療できない。論文は読んできたが処置はできない、というような状況になる。ゲートキーパー役で、投薬か生活指導かを判断できるのが総合診療医。大病院など中央でコントロールすれば、レジデントが足りなくなることは無い。

司会:患者さんからニーズがあるという話だったが、地域医療などには学生の側にインセンティブがないと行きづらい。インセンティブとしては、まずお金、それでだめなら強制的にとなっていくのであろうが、それでは高校生が医者になりたがらなくなってしまうかもしれない。

土屋:インセンティブは患者さんの笑顔。それを一番具現しやすいのは大学病院でではなく、診療所で相手の生活まで知れるとき。金儲けだけでなくそういう理由で開業する人も多い。学生だけでなく中堅でも地方に行きたがらないのはなぜか。資料の最終ページ、中川昭一を蹴ったという記事が載ったが、蹴ったわけではない。ただ彼の地盤は北海道で、心臓外科が成り立たなくなって医者がみんないなくなってしまった。医師確保のため大学病院にも行ったが、やはり厚生省に行かないと仕方がなくなった。そこで医者の資格を持った事務官、病院課長に聞いたら、管轄下の国立病院は今6つしかないと。まず国際医療センターに言ったら、北海道に送れる医者はいないといわれた。それでがんセンターに来たが、当然送れる医者はいないと言った。レジデントなら病院長権限で送れるだろうと言われたが、とんでもない。レジデントは教育中で、要求を満たせない。スタッフも高度に専門化しており、あらゆる状況に応える訓練はしていない。それなので送ったら地元住民を冒涜していることになる。真相はむしろ、病院課長が院長室の椅子を蹴っただけ。翌日中川さんから電話があり、がんセンターに頼るべき問題ではないと、向こうから謝ってきた。こういうことは政治家のほうがよっぽど良く知っている。こういった経過をアエラの編集者が面白おかしく記事に仕上げただけ。話を元に戻すと、今地方に中堅医師が行かないのは、自分の力量に自信がないから。読売が書いている人員最適配置は馬鹿な議論。住民に合ったトレーニングをしてから医師を送り出すべき。

思い思いの質問・意見が会場から次々飛び出す。

群馬大5年女性:学生の立場として、卒前研修を変えて欲しいと願っている。アメリカの医学教育の現場では、医療行為の実践を含む実習を卒前に行っている一方で、日本の医学教育は座学中心で、高学年ですら医師免許が無いために見学中心の実習である。卒前にきちんと研修していないと、その後の卒後研修も後期研修も上手くいかないと私は思う。私は5年生でも医師国家試験を受けるチャンスを設けて欲しいと要望している。合格した学生はアメリカ型の参加型実習をできるようにして欲しい。参加型実習によって医学教育の卒前教育を充実させて欲しい。

土屋:私が学生時代にしていた議論そのもの。あるとき、系統講義なんてなくせと医学部の先生に言ったら、その先生に、今はもう殆どないと反論されたが、実際にはそうでもないみたいだ。
私がある米国の医学部を訪問した際、図書室の中に内科・外科の同じ本が50冊ほど置いてあった。なぜ同じ本をこんなに買うのかと向こうのスタッフに質問したところ、学生の人数分の教科書を用意して学生にここで勉強してもらっている、そうすれば学生が本を買う必要が無い、と返された。この仕組みだと、教員がここからここまで試験と言えば、学生はみな図書館に行って勉強するので、系統講義が不要である。全米で同じ教科書を使っているので、学生に教える内容の標準化が行われている。日本でも同様にすれば、実習の時間を取れるはずである。
ご要望に関してだが、医者として必要なのは、腕も必要だが、頭、ブレインワーク、マネジメントが大事だ。例えば、患者さんにどのような治療をすればいいか、治療を行うにあたり必要なのはどの医者なのか、などが主治医に必要な能力である。これらのことをロジックで考えることが大事。皆さん学生をベッドサイドに入れるのは、診断が重要だから。ブレインワークが大事。それには医師免許の有無は関係ない。テクニックはテクニックで免許を取得し、卒後に別に学べばいい。診断が当たっていれば医者としては良い。診断に関する指導を行うためにはマンツーマンでなければいけないが、現状ではそんなこまめな教育は出来ない。よって、系統講義をやってれば良いとなってしまう。アメリカの制度が良いと言う人もいるが、それなら日本が合衆国の51番目の州になれば解決する。

慶応3年男性:例えばアメリカの病院が、北海道かどこかにアメリカの教育制度の病院を作ったとしたらどうなるだろうか。日本では家庭医の教育システムが整っていない。いきなり初期臨床システムなどを変えるのは難しいと思うので、恐らく現在の制度の中で専門医としての家庭医が誕生するが、この家庭医の導入が失敗してしまうと、教育システムを変えることが難しいという結論になってしまうのではないか。

土屋:学生の実習を変えるのは簡単。市中病院を使えば良い。そこのレジデントが研修医をチェックすればいい。制度設計者は、研修先を大学病院のみと考えているからいけない。アメリカでは、関連病院が全部集まって学生実習、初期研修、レジデントなどを分担して受け持つ。日本でも山形では山形大学、県立病院が協力して割合とうまく行っている。しかし東京では虎ノ門や聖路加といった市中病院があるのに学生は行っていない。患者さんにも、学生と医者のダブルチェックが働くというメリットがある。指導する側の医者にとっても、質問に答えるために知恵を使わないといけないので、勉強になる。もし自分のレベルの維持をしようと思ったら、学生や研修医の教育をすると良い。

司会:そろそろ中盤だし、ここからは質問をいくつかまとめて、土屋先生にご回答してもらう。

東大3年男性:ラジカルな意見かもしれないが、プロフェッショナルを志望している研修医に対しては、進む専門分野が決まっているのだからローテーションさせるのを止めてしまったらどうだろうか。

慶応4年男性:女性の医師が出産などによって途中で退職してしまうが、医師不足の解決策として彼女らを再教育する、もう一度働いてもらうという方法はどうか。

帝京1年男性:アメリカが良いという大前提で先生はお話なさっているが、日本の医学教育はヨーロッパ、特にドイツ、フランスを手本にしてきた。日本の医療制度は、昔はある程度整っていたが、今は木に竹を接ぐような形でだめになってきた、という意見が世の中にはあるが、どう考えるか。もう1つ、私は基礎医学研究に進みたいが、基礎系の研究者たちと話すと、現在の研修制度が施行されて以降量も質も低下したと言う。日本の制度というのは、メディカルスクール型ではなく、最初に基礎・臨床を叩き込んでからという制度になっているが、他の学部の研究者から見ればおかしな点がある。今の制度だと余程の強い意志で最初から研究医を志望しているのでなければ研究医にならないが、この仕組みをどう思うか。

土屋:まずローテーションについて。初期研修はオリエンテーションのようなもの。がんセンターの場合、外科を志望している研修医であれば、病理、放射線などの診断学、内科の化学療法にまず回す。がんセンターは完全に分業制なので、研修でローテーションしなければ癌全体を見ることが出来ない。がんの患者さんは最後には何らかの形で緩和医療が必要になるので、そういう部署も見せる。専門が分化すればするほど関連科をローテーションしないと専門医として通用しなくなっていく。
次に女性について。女子医も男性を入れないといけない、というくらい男女の人数比バランスが崩れている。退職して子供を産んでから再び戻る際に再教育、ということは東大など力を入れているが、もっと大事なのは、女性が途中で辞めないで続けられる環境を作ること。たとえば24時間保育所など。女性医師のパートナーは医師が多いので、パートナーの男性医師もフィフティーフィフティーで育児休暇をとればいい。こう言うと、レジデントの男性はそっぽを向くが、うちの病院では男性で育児休暇を6ヶ月とる人もいた。
医学教育制度について。国民から見れば天に唾している感じ。私もアメリカが何でもいいとは言わないが、あの国が制度に関して議論を一番行っている。日本での医学教育制度の歴史はヨーロッパを参考にして100年程度で、アメリカでも同じく100年程度だが、あちらでは大規模に議論している。ヨーロッパでも、EU統合の過程で、各国がお互いの医学教育制度にもっと干渉してより良い制度を目指して議論しようという流れである。韓国では電機メーカーのサムスン、自動車メーカーのヒュンダイといった大企業が大病院を作って運営している。病院を作る前からソウル大学の優秀な医学生に奨学金を出して、卒業後サムスンの病院に就職してもらうようにする。卒業後、まだ病院が出来てなかったので外国へ留学に出して、病院を出来る際に帰国させる。マネジメントが大事なので、卒業生をビジネススクールに行かせたこともある。そうやって完全にアメリカ的な病院を作る。儲かるのか、と思うが工場の周りにある、何万もの従業員や家族が住むための団地の真ん中に病院を作っているから採算はとれる。日本でも環境に合ったシステムを作るべき。日本には長い歴史があるので、同様に長い歴史を持つヨーロッパがよいお手本になるだろう。
日本の基礎研究はもともとダメ。組織は臨機応変にやるのがいいのに、日本は役所の許可制だから、例えば外科の定員が10人としたら微生物も10人で、当然定員が余るので臨床が基礎の空いている定員枠を借りていく、という野蛮な方法であった。また、臨床の医局に入っている医師が臨床の教授の指示で基礎系の教室に転籍し研究を行う、ということが現在の研修制度が実施されるまで行われていて、彼らによって基礎の教室は論文数を稼いでいたのである。
東大の微生物教室といえば昔から、東大理学部出の人が助手などをやっている感じだが、そうやって分野をまたいで人材を集めるのは良いと思う。また、がんセンターにも研究室があるが、がんセンターは文部科学省管轄ではなく厚生労働省管轄である。単なる研究であれば文部科学省管轄の各大学などが行っているので、がんセンターが行う必要が無い。厚生労働省が研究室を持つ意味は、臨床現場への応用、政策立案などであり、そのへんを役人はよく考えて欲しい。日本はマネジメントに関してはダメ。全ての大学に基礎の全ての教室が無くてはいけない、というのはおかしい。そうではなく、講義の面白い先生を他の大学や研究機関から借りて講堂でやれば面白い。例えば、この間学生と放医研に行った時も、理学部出身の先生にお話を伺ったが、その先生の話がとても面白く、われわれはお話に引き込まれた。

慶応4年男性:定員を国で決めるならば、いっそのこと国が直接医者を雇うのはどうか。

慶応4年男性:家庭医自身も問題を抱えている。アメリカでも家庭医の給料が専門医に比べて格段と安く、家庭医の外国人の率が高い。イギリスでは直接専門医に診察してもらうことが出来ず、まず家庭医に診察してもらわなくてはならなくて、専門医に診察してもらうまでは1ヶ月待ちである。イギリス在住の日本人に、日英どちらの制度が良いか、と質問したところ、日本のシステムの方がずっといいと言っていた。どう思うか。

女子医5年女性:この間、初期研修先を選ぶため、ある病院へ行った。その病院が大変気に入ったので、スタッフに「後期研修もここで受けたいが可能か。」と質問したところ、「地元の大学の医局からしか後期研修の研修医を受け入れていないので難しい」、と回答された。後期研修のことを考え、その大学に研修医として所属し前期研修を終わらせ、そこからその病院に派遣されて後期研修を受けたほうが良いのだろうか。また3年次以降は医局に入ったほうがいいのか入らないほうがいいのか。アドバイスをお願いしたい。

新潟4年男性:佐久病院など上手く地域医療ができている。新潟では小児科も上手くできている。今地域医療、小児科の崩壊が叫ばれているが、解決策として、魅力のあるシステムを打ち出せば良いのではないか。

帝京4年男性:僻地医療を行いたいと考えているが、僻地の実習をして二の足を踏んでいるのが実情。医師は強い意思があるが、本音では違う面も。本音を聞いたところ、他にやる人がいないから自分がやっている、我々は医学界から見捨てられているという声も。あと家庭医育成についてだが、common diseaseの患者さんが大学病院や市中病院に十分な数来院するのか。

土屋:数をコントロールするのに国が管理するという方法は、現状では国にお金がないから無理。きちんと投資をすれば何とかできるだろうが、更にプラスアルファの投資をしないと上手く動かない。またコントロールタワーをどうするか、という問題がある。今の役人をコントロールタワーにするのは危なっかしい。コントロールタワーが「10年後のためにはこの科の医師を増やさない」などと考えた際に、その決定が信頼されなければならない。中医協は自分の権益ばかりだからだめ。例えば高久先生などの学生などから信頼される先生が5〜6年専従でコントロールタワーの役割を担わないと。
地域医療。家庭医育成を行っている福島県立医科大では、大学病院がcommon diseaseが十分存在しないので、市中病院と上手く協力している。
家庭医。町の診療所で看板を見ても、内科などとしか書いていない。generalistの需要は高い。日本でも家庭医に対する理解が進んでトレーニングが進めばよい。イギリスでは「この地区の人はこの先生しかかかれない」などと地区別に家庭医を決めてしまったから失敗だった。医師会のよく言うフリーアクセスだが、診療所の中ではフリーアクセスで構わないが、がんセンターにカゼ引きの患者が来てはほかのがん患者が困る。そこでうちでは紹介を必須にした。法律があるので一応紹介無しでも診察するが、基本的に受付で患者に紹介があるか聞く形にした。そうしたらがんセンターで治療をする必要が無い患者さんが減った。結果としてがん患者さんにより時間を掛けられるようになった。日本では本格的にジェネラリストとしての教育が行われていない。開業医などが経験をつんで結果的にジェネラリスト的にできるようになった人はいる。家庭医などの認定医は、その認定が信頼できるようにしなくてはいけない。
初期研修で後期研修のことを考えて選択しないとならないか、これは難しい問題。そもそも制度としての後期研修制度が変わるかもしれない。自分で目を光らせていないといけない。制度がどう転ぶか分からない。しかし、どこかで妥協もしないといけない面もある。
計画配置については、読売の案はばかげている。若手をいきなり地域医療に配置しても意味が無い。地域には一人前になった医師が必要。もちろん地域による格差は是正しないといけないが。例えば、僻地に行ったら10年代わりが来ない、これでは誰も僻地に行きたくないだろう。だったら交代制などを組めばいい。僻地だから年収3000万円ですよ、とやっても上手くはいかない。僻地では平日だけ勤務し、土日は大学医局員が代わりに勤務するなどとすれば、息長く続けられる。
佐久病院は病床数を増やすために工場跡地の広い土地を企業に売ってもらい、そちらに病院を建設しようとしたが、佐久市長に意地悪されている。近所に市がやっている病院があるから意地悪をする。佐久病院が成功するかどうかは市長が意地悪をやめるかどうかにかかっている。佐久病院のえらいところは、険しい道を通って往診を手分けしてやったこと。
佐久病院を作った若月先生は、東大を追い出されてから、一代で1000ベッドの病院を作り出した。放り出されてしまうことを怖がることは無い。私も6年間で4回ストしたが、無事6年で卒業できた。ストを続けて半年ぐらいたつと、大学側から「そろそろ授業に戻らないと留年する」という知らせが来る。するとみんな授業に戻る。よって6年間で卒業することが出来た。つまり2年分はスト、4年間が授業。これが4年で医学教育は足りる、という実例、根拠である。システムがないのは皆さん不安で困るだろうから、そこをがんばりたい。

最後にメッセージを。ここに来ている人たちは自分で進路を考えて拓いていきたいと考えている。これで十分。100点を差し上げる。他の学部では、自分で進路を拓いていくのは当たり前のことだが。いざとなったら医師免許を取った翌日から開業することができる。今の制度だと2年間の研修はいるが。
学生に求められていることは何か。まず患者を向いていれば間違いは起こらない。初期研修の目的は、安全で質の高い医療者を提供することのはず。しかし現状の研修は技術知識に偏重がある。医者に必要なのは倫理観、チームの和。地域医療でもチームは必要。もう1つは、仁。つまり慈しみ、思いやり。医者には絶対必要。技術も必要だがその心が伝わってこないと患者団体は訴えている。そして徳。辞書をひいてみると、よい行いをする性格、身についた品性、人を影響する力とのこと。しかし辞書には余計なことが書いてあって、続きに、(別の意味として)金銭的な利益とか書いてある。そっちは要らない。以上です。

司会:今回はほんの入り口。次回の予定も立てている。
副代表:第2回第3回と継続していきたい。第2回を早急にやりたい。11月内でも。次回のテーマは専門医制度、専門の先生を呼びたい。


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